「建築家なしの建築」

【建築家なしの建築】
私がこの本と出合ったのは大学生の時。
確か、建築史の授業中に話が出てその場で購入したことを覚えている。
久々に手に取って読み返してみると、当時の自分では感じなかった新しい感情が芽生えた。
今の時代だからこそ読むべき良書をぜひ紹介させていただきたい。

さまざまな材料や構造システムを手にして、多種多様な建築を大量につくりだしている現代。
その建築の始まりとも言える、風土的または田園的などと言い表せられる〈建築家なしの建築〉を広く紹介している一冊です。

さまざまな時代、さまざまな地方において、無学の工匠たちは、建物を自然の環境に対応させることに素晴らしい才能を示していた。
気候の気まぐれや地形の険しさを喜んで受け入れてさえもいた。

風土的建築は時代、地域、人に対して素直で“必然性”のある建築であったと言えます。

現在、普通に作られている建築も、どうしてそうなったのかには歴史的な背景があります。

さまざまな現代的な発明が、昔から風土的な建築の中にあるわけで、現代の煩雑な技術の先駆者となっていることも知る。
また、住宅から受ける本当の恩恵とは何かについて考えるきっかけも与えてくれる。

本書からの抜粋で、私の中で一番腑に落ちた一文。
私たちは、囲まれた空間の価値を工費や賃貸料に換算して評価するのが普通で、空間の官能的効果に対しては鈍感になっている。〉

官能的効果。
いわゆる、心の豊かさや健康といった目に見えないことこそが、住宅から与えられるべき一番の恩恵だと考えています。
最初の高い安いではなくて、もっと本質的なところで自らの住まいを見定めるべきであると。

私たちが常々思っていることを上手く要約してくれた一文であります。

こういったことを理解して設計するのか、理解せずに闇雲に設計するのかでは全く異なる住宅となるでしょう。
この部分は長くなるのでまた違う機会に考察していきたいと思います。。


この書には多くの白黒写真が使用されており、写真集の様な一面も兼ね備えています。
どれも、一度目につくと手を止めて見入ってしまう。

深く掘り下げていくと住宅の本質というところも見えてくるので、
住宅設計に関わる方にはぜひ読んでみてほしい良書であるのです。

建築家なしの建築 (SD選書 (184)) | B・ルドフスキー, 武信, 渡辺 |本 | 通販 (amazon.co.jp)